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秋田地方裁判所 昭和50年(ワ)231号 判決 1976年5月31日

昭和五〇年(ワ)第二三一号事件原告

菊地鉱

ほか一名

昭和五〇年(ワ)第二五九号事件原告

森川武

ほか一名

昭和五〇年(ワ)第二三一号・第二五九号事件被告

虻川直道

ほか一名

主文

被告らは、連帯して原告菊地鉱に対して三三五万九、八一七円、同菊地正子に対して二九五万五、七一七円、同森川武に対して三四八万一、一六〇円、同森川洋子に対して三〇七万八、二六〇円およびこれらに対する昭和五〇年五月二四日よりそれぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

原告ら

被告ら

一  求める裁判

1  被告両名は、連帯して、原告菊地鉱に対し八〇〇万四、四二五円、原告菊地正子に対し七五〇万〇、三二五円、原告森川武に対し七九九万一、二四七円、原告森川洋子に対し七四八万八、三四七円およびこれらに対する昭和五〇年五月二四日より完済に至るまで各年五分の割合による金員を支払え。

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  主張(争いない事実および争点)

〔請求の原因〕

1  事故の発生

とき 昭和五〇年五月二三日午後一時一五分ころ

ところ 秋田市旭南三丁目九番一七号先十字路

加害車A 普通乗用自動車

運転者 被告

虻川直道

加害車B 普通乗用自動車

運転者 被告

高島輝夫

被害者 訴外 菊地孝男

訴外 森川いずみ

いずれも頭蓋内損傷、頸鎧損傷によりまもなく死亡

事故態様 秋田市楢山方面から同市川元小川町方面に向けて進行中の加害者Aと同市大町方面から同市茨島方面に向けて進行中の加害車Bとが、右十字路のほぼ中央において激突し、その衝撃により、下校のため道路右端を歩行中の被害者両名が右十字路角の佐藤木工小屋内にはね飛ばされた。

〔認否〕

認める。

2 責任原因

被告らは、本件事故当時、いずれも前記運転にかかる車両を保有し、自己のためにこれを運行の用に供していた。

認める。

3 身分関係と相続

訴外菊地孝男は、原告菊地鉱および同正子間の長男、訴外森川いずみは、原告森川武および同洋子間の長女であり、各原告らは、いずれも各訴外人らを相続した。

認める。

4 損害

(原告菊地鉱、同正子関係)

(一)  得べかりし利益

訴外菊地孝男は事故当時満六歳の健康な男子で、本件事故にあわなければ、満一八歳から満六七歳に至るまでの間少くとも、昭和五〇年における男子労働者の平均賃金(賃金の上昇を考え、昭和四八年度賃金センサス一巻一表の男子労働者の平均賃金の一・三倍を下らない)を得られた筈であつたのに、これを喪失した。

そこで、その間の生活費として五割を更に一八歳に達するまで一ケ月一万三、〇〇〇円の割合による養育費を控除して、ホフマン式で計算すると、次の如く一、七九七万三、七三〇円となり、原告菊地鉱および同正子は各二分の一宛相続した。

(107200×12+337800)×1.3(年収)×0.5×(生活費控除)×(27.6017-9.2151ホフマン係数)-13000×12×9.2151(養育費)=17973730

不知。(なお、被告高島は、(一)相続人たる原告らの損害賠償請求権のうち、死者の逸失利益に相当する損害賠償請求権は、死者の稼働開始を基準とする原告らの平均余命年数に対応する年限の稼働額に限定されるべきであり、(二)計算方法については、昭和四九年度の賃金センサスを基礎として、ライプニツツ式により算出すべきである旨主張する。)

(二)  原告菊地鉱の支出した費用

(1) 秋田県交通災害センターへの支払四、一〇〇円

(2) 葬儀費用 五〇万円

不知。

(三)  慰藉料

最愛の長男を失つた原告菊地鉱および正子の精神的苦痛を考えれば、慰藉料は、各五〇〇万円を下らない。

争う。

(四)  弁護士費用 右原告ら各五〇万宛

争う。

(五)  損害のてん補 右原告らは、自賠責保険より一、三九七万三、〇八〇円受領したので、各二分の一宛右損害に充当。

認める。

(六)  総額

(1) 原告菊地鉱 八〇〇万四、四二五円

17973730×0.5(逸失利益相続分)+4100(災害センター支払分)+500000(葬儀費)+5000000(慰藉料)+500000(弁護士費用)-13973080×0.5(自賠責受領分)=8004425

(2) 原告菊地正子 七五〇万〇、三二五円。

17973730×0.5(逸失利益相続分)+5000000(慰藉料+500000(弁護士費用)-13973080×0.5(自賠責受領分)=7500325

(原告森川武、同洋子関係)

争う。

(一)  得べかりし利益

訴外森川いずみは、事故当時満六歳の健康な女子で、本件事故にあわなければ、満一八歳から満六七歳に至るまでの間、通常の労働および家事労働に従事でき、少くとも、昭和五〇年度における女子労働者の平均賃金(賃金の上昇を考えれば、昭和四八年度賃金センサス一巻一表の女子労働者の平均賃金の一・四倍を下らない)に、家事労働分として年収二四万円を加えた額を得たものと評価でき、これを喪失した。そこで、その間の生活費として五割を更に、一八歳に達するまでの間の毎年一二万円の養育費を控除して、ホフマン式で計算すると、次の如く一、一九八万〇、一一五円となり、原告森川武および同洋子は、各二分の一宛相続した。

{(57400×12+156500)×1.4+240000}(年収)×0.5(生活費控除)×(27.6017-9.2151ホフマン係数)-120000×9.2151(養育費)=11980115

不知。(被告高島につき前記主張同旨)。

(二)  原告森川武の支出した費用

(1) 秋田県交通災害センターへの支払二、九〇〇円

(2) 葬儀費用 五〇万円

不知。

(三)  慰藉料

最愛の長女を失つた原告森川武および同洋子の精神的苦痛を考えれば、慰藉料は、各七二五万円が相当である。

争う。

(四)  弁護士費用 右原告ら各五〇万円宛

争う。

(五)  損害のてん補 右原告らは、自賠責保険より一、二五〇万三、四二〇万円を受領したので、各二分の一宛右損害に充当。

認める。

(六)  総額

(1) 原告森川武 七九九万一、二四七円

11980115×0.5(逸失利益相続分)+2900(災害センター支払分)+500000(葬儀費)+7250000(慰藉料)+500000(弁護士費用)-12503420×0.5(自賠責受領分)=7991247

(2) 原告森川洋子

11980115×0.5(逸失利益相続分)+7250000(慰藉料)+500000(弁護士費用)-12503420×0.5(自賠責受領分)=7488347

争う。

5 よつて、原告らは被告に対して、それぞれ求める裁判記載の如く、右損害金およびこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五〇年五月二四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

争う。

(認否)

争う。

(被告高島の抗弁)

1 本件事故は、左記のように、専ら被告虻川の過失によつて発生したものであり、被告高島は、右車両の運転につき注意を怠らず、又右車両には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから、被告高島は、本件事故につき何ら責任がない。

(一)(1)  道交法三六条の明らかに広いか否かの判断は、自動車を運転して交差点を通過しようとする運転手の咄嗟の判断を基礎とすべく、本件交差点で交差する道路は双方とも側溝が存し、東西道路については、交差点直前では路面と著しい高低差があるものの、その東西では路面と同じ高さになつており、南北道路についても、交叉点の南側直前では、側溝が埋まり、路面と同一であるが、北側では路面より低くなつているから結局側溝をいずれも除外して見れば、東西道路(被告高島進行)が九・三~九メートル、南北道路(被告虻川進行)が七・三~五・九メートルとなり、被告高島の進行する道路が、「幅員が明らかに広い道路」と言え、

(2)  本件交差点の四隅はすべて削り取られ、かつ、四隅に接する家屋はなく、左右の見通しのきかない交差点ではなく、

(3)  右東西道路は駐停車禁止路側帯が設けられた交通の頻繁なバス道路であり、右南北道路には一時停止線および一時停止の標識が設置されており、従つて右東西道路は、事実上優先道路に準じた機能形態をもち、且つ、事実上の優先関係が明らかであるといえ、被告高島が、本件交差点に進入する際、徐行義務はなかつた。

(二)  更に(1)、被告高島は、本件交差点で、交差する左右の道路の交通の安全を確認しながら、二メートル前後で停止できる速度で進行し、

(2) 実況見分調書(甲第九号証)添付写真に見える南側スリツプ痕は、進むにつれ左側に寄つており、これは、左側前輪と後輪のスリツプ痕を誤つて一本にしたものであり、

(3) 本件衝突地点は、南北道路の中央線を結ぶ線から本件交差点中央より東側に存するマンホールの直径である一・四六~一・七九センチメートル東側であり、実況見分調書の衝突地点は、被告高島の指示によるものでなく、警察官が独自の判断でおいたものにすぎず、

(4) 被告虻川は、中央線を越えて右側を、一時停止の標識も無視し、徐行もせず、時速五〇キロメートルで進入してきたものであり、

(5) 以上のとおりであるから、本件事故は専ら被告虻川の過失によるもので、被告高島には、本件交差点に左側より進入して来る車両に対しては、本件南北道路の中央線を結ぶ線の手前で停止し得る速度で、左右の安全を確認して進入すれば過失がないものと言うべきである。

争う。

2 仮に、被告高島に、本件事故につき、多少の過失があつたとしても、その程度は被告虻川のそれに比し、極めて軽微であり、共同不法行為の場合、各自の与えた原因が共通の限度で一部連帯を認め、残余はより多くの原因を与えた者の個人的賠償義務となると考えるべきであるから、被告高島の責任は、右の限度に止められるべきである。

争う(原告菊地両名は、同原告らに一〇〇万円の提供のあつたことは認めるが、刑事責任軽減のための上申書を作成することを条件とされたため受領を拒絶したと述べた)。

3 原告らは被告虻川が本件賠償の内金として原告らに提供した二〇〇万円の受領を拒否したものであるから、同金員相当分は賠償義務の範囲から控除されるべきである。

三  争点に対する判断

1  損害額

(一)  得べかりし利益

訴外菊地孝男および同森川いずみは、本件事故にあわなければ、満一八歳から満六七歳に至るまでの間、稼働し、収入を得られたはずであるのに本件事故によりこれを喪失した。右収入は、昭和四九年度賃金センサス一巻一表の男子又は女子労働者の一八歳~一九歳の平均賃金を下らず、その間の生活費としてその五割を必要とするものと考えられるから、中間利息をホフマン式により算出し、各控除して得べかりし利益を算出することとする。

なお、中間利息の控除についてはホフマン式あるいはライプニツツ式による等あるが、それぞれ難点があり、いずれも結局妥当な損害額を算出する一方式にすぎないものであるところ、本件については右の如く、初任給固定方式をとりホフマン式によるのを相当とするものであり、また、被告高島は、得べかりし利益につき、原告らの平均余命年数に対応する年限に限定すべきである旨主張するが、稼働可能年数等は死者に発生した損害額の算出のための一要素にすぎず、結局死者に発生した逸失利益を既発生の損害賠償請求権として相続したものと考えられるので、当裁判所は、右主張を採用しない。

原告らは、右得べかりし利益を各二分の一宛相続したもので、それぞれ次の額となる。

(1) 原告菊地鉱および同正子

(75400×12+105100)×18.387×(1-0.5)×0.5=4642257

(2) 原告森川武および同洋子

(64500×12+102700)×18.387×(1-0.5)×0.5=4029970

(二)  慰藉料

訴外菊地孝男および同森川いずみが原告らの最愛の長男あるいは長女であることに本件事故態様を考慮し、原告らの精神的苦痛は多大なものがあると考えられ、各五〇〇万円をもつて慰藉するのを相当とする。

(三)  原告菊地鉱および同森川武の支出した費用

成立に争いない甲第五号証および乙第三号証(診療報酬明細書)によれば、原告菊地鉱が四、一〇〇円、同森川武が二、九〇〇円をそれぞれ本件事故に関し秋田県交通災害センターへ支払つたことが認められ、

右訴外人らの死亡により右原告両名はその葬儀費用として少くとも各四〇万円を要したと考えられる。

(四)  弁護士費用

本件の難易、認容額その他の事情を考慮し、右原告ら四名につき、各三〇万円をもつて相当とする。

(五)  総額

(1) 原告菊地鉱 三三五万九、八一七円

(得べかりし利益)4642257+(慰藉料)5000000+(災害センター支払い)4100+(葬儀費)400000+(弁護士費用)300000-13973080×(自賠責)0.5=3359817

(2) 原告菊地正子 二九五万五、七一七円

(得べかりし利益)4642257+(慰藉料)5000000+(弁護士費用)300000-13973080×(自賠責)0.5=2955717

(3) 原告森川武 三四八万一、一六〇円

(得べかりし利益)4029970+(慰藉料)5000000+(災害センター支払い)2900+(葬儀費)400000+(弁護士費用)300000-12503420×(自賠責)0.5=3481160

(4) 原告森川洋子 三〇七万八、二六〇円

(得べかりし利益)4029970+(慰藉料)5000000+(弁護士費用)300000-12503420×(自賠責)0.5=3078260

2  被告高島の抗弁について

(一)  被告高島の過失について

(1) 本件交差点における被告高島の進行する道路が道交法三六条の「明らかに広いもの」か否か。

道交法三六条二項にいう道路の幅員が明らかに広いものとは、交差点の入口から、交差点の入口で徐行状態になるために必要な制動距離(空走距離を含めて)だけ手前の地点において自動車を運転中の通常の自動車運転者が、その判断により、道路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものをいうと考えられるところ、被告高島の進行する道路は当時時速三〇キロメートル制限であつたのであるから同速度を前提に考えれば尤も、制限速度未満で走つておれば、右距離は、更に短かくなると考えられるが、被告高島は、後記のように、同速度を越えて走つていたことが明らかであるから、制限速度を前提に論ずるものとする。これは(2)の場合も同様。)徐行とは同法二条一項二〇号にいう車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することであり、通常ブレーキを操作して一メートル以内で停止できるものを指すと考えられるから、時速三〇キロメートルの制動距離が五~六メートル程度、空走距離が六~八メートル程度であることを考えれば、本件交差点の一〇~一三メートル程手前での右述の判断が要求され、その判断は、同地点より交差点を越えて自己の進行する道路の幅員と、同地点より見ることのできる交差道路の幅員とを対比してなされるべきところ、成立に争いない甲第九号証(昭和五〇年五月二四日付実況見分調書)によれば、被告高島の進行道路においては、本件交差点の手前約一〇~一三メートル付近より交差点にかけては両側に〇・五五メートルの側溝が存し、道路部分の幅員は九・三〇メートルであり、その内に路側帯が設けられており、交差点を通り過ぎた後は、同じく側溝を除いて九メートルとなるところ、右述の判断は被告高島の主張するごとく、右場所における咄嗟の判断であるから路側帯は右判断においては道路の幅員に入れて考えるべきであるが、側溝は明らかに通行不能な部分であるので、右幅員に入れて考えるべきでなく、一方、被告高島の進行する道路と本件交差点において交差する道路の右地点より見通すことのできる交差点付近は、前掲甲第九号証によれば、L字溝らしきものが存するものの、路面と全く同一平面であり、通行可能なことが明らかであり、これを入れてその幅員を見れば、北側部分において七メートル、南側部分において八・四メートルでありこれらの事実を前提とすれば、被告高島の進行する道路が、通常の運転者において、自己の道路の幅員が明らかに広いと客観的に一見して見分けられるものとは言えず、この点に関する被告高島の主張は採用できない。

(2) 本件交差点が「左右の見通しがきかない交差点」か否か。

道交法四二条一号の「左右の見通しがきかない交差点」における「見通し」とは、同条号が本件の如く、交差点における出合頭の事故を防止することを目的としていることを考えれば、その進行する道路の最高速度を基準として交差点入口から、交差点入口で徐行状態となるために必要な距離だけ手前の地点において、左右道路における交差点入口からの右距離と同一の距離までが見通せるか否かをいうものと考えられるところ(制限速度未満の場合には(1)と同様)本件交差点においては前述のようにその距離は一〇~一三メートルと考えられ、前掲甲第九号証によればこの見通しを妨げるものとして塀あるいは建物の存することが明らかであるので、本件交差点は左右の見通しがきかないということができ、この点に関しても被告高島の主張は採用し難い。

(3) 本件交差点における被告高島の進行する道路が、道交法三六条に準じて優先通行権が認められ、同人に徐行義務がないとの点について。

道交法四二条一号の法意は前述のとおりであるから、徐行義務が免除される場合は厳に制限さるべきところ、被告高島の主張するような事実が認められるからといつて、ある程度の事実上の優先関係を法的なものまで高めることは論外であり、主張自体失当である。

(4) 本件事故が専ら被告虻川の過失によるものであることおよび信頼の原則について。

(イ) 被告高島は、本件交差点で交差する左右の道路の交通の安全を確認しながら、二メートル前後で停止できる速度で進行した旨主張するが、前掲甲第九号証(実況見分調書)、成立に争いない甲第一一、一二号証および丙第二号証(被告高島の供述調書、公判調書)ならびに被告高島本人尋問の結果によれば、同人は本件交差点にさしかかる際、時速四五~五〇キロメートルで進行し、交差点の数メートル手前で左側道路から白いものが出てきたのを発見し急ブレーキをかけたが間にあわず、本件事故となつたものと認めることができ、右認定に反する証拠はなく、

(ロ) 被告高島主張のスリツプ痕および衝突地点については、右各証拠によれば、被告高島は、捜査段階ならびに刑事第一審の公判廷においても、甲第九号証の実況見分調書に立合い、これを指示し、そのとおり図化されていることを認めていながら、当裁判所においてこれを覆したものであり、また、虻川車のひきずり痕の存在および同被告の供述(成立に争いない甲第一三、一四号証)、証人山口勇三の証言と対比してみても甲第九号証の衝突地点に大きな誤りがあることは考えにくく、高島車のスリツプ痕の広がりについても、急制動をした場合に、このようなことも起り得、この点に関する被告高島の主張は採用できず

(ハ) 被告虻川が一時停止の標識を無視し、徐行もせず本件交差点に進入したことについては前掲甲第一三、一四号証により明らかであり、又、前掲甲第九号証によつても、被告高島主張の如く、被告虻川が本件交差点の南北道路の中心線を結ぶ線より右側にかかつて走行していたことを認めることができるものの、

(ニ) 以上に見てきたことよりみれば、本件事故については、被告虻川の過失がより重大なものであることは明らかであるが、それのみに起因するとは言い難く、前述のように徐行義務の存する交差点に進入する際に時速四五~五〇キロメートルで進行した過失も本件事故の一因になつていることは明らかと言え、信頼の原則についても、なるほど被告高島の主張する如く、同人の進行する道路にある程度の事実上の優先関係の生ずることがありうるにしても、右のような速度で本件交差点に進入しようとしていることを前提とすれば、信頼の原則の適用の余地もない。

(二)  共同不法行為の賠償義務について

この点につき、被告高島の主張することも共同不法行為者の一人の過失が軽微な場合に、負担の公平を考えると尤な点もないわけではないが、なお、交通事故における被害者の悲惨さを考え、その救済の必要性を考えるならば、民法七一九条が共同不法行為の成立につき、責任度合により成立範囲を限定していない以上共同不法行為者間の負担の公平は求償の問題として処理することが相当であり、被告主張は採用しない。

(三)  履行の提供について

被告高島主張のとおり、履行の提供があつたとしても、債務のわずか一部の履行の提供であり、これを拒否することが信義則に反する事情も考えられず、債務の本旨に従つた提供とは言えず、この主張も採用できない。

四  結論

従つて、原告らの本訴請求は主文記載の限度で理由があるのでこれを認容し、その余を棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田村洋三)

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